2014年から2018年までの作品540余首を収めた第13歌集。
亡き友とかわす会話のつまらなさおのれの思うままにはこべば
旅にある吾ならねどもしばらくを木蓮の咲く駅を楽しむ
楽団を裏より見れば譜面台の白き四角が放射状に並ぶ
どのように書いても裏の魂胆が見える、というところまで来た
江戸の世の貧しき武士のなりわいは今に残れり舘林の躑躅
率直に言ってくれしと喜びを幾たびも聞き嫌われてきぬ
いくたびも舌にまさぐるゆるゆるとなりしばかりに歯は異物なり
今の世にもてあそぶごと楽しめりゴッホの狂気ゴーギャンの傲慢
海岸の岩場の先に立てる人何か叫びぬ口動く見ゆ
死に顔は見られたくないと小高言い吾は見ざりきわが友小高
1首目、現実の相手ならば予想外の受け答えが返ってくる時もある。
2首目、地元の駅にいて旅先のような気分を味わっているところ。
3首目、そう言えば、客席から見る時は譜面はあまり目立たない。
4首目、短歌の詠み方についての話だと思って読むと味わい深い。
5首目、下級武士が副業として躑躅の栽培をしていた歴史。
6首目、「率直に言ってくれてありがとう」と表面上は言うのだが。
7首目、ぐらぐらするまでは歯を異物とは認識していない。
8首目、「もてあそぶごと」がいい。本来は生死にかかわる話。
9首目、風や波音にかき消されて、何を言ってるか聞こえない。
10首目、小高賢の生前の言葉を思い出し、棺を覗かなかったのだ。
2020年4月13日、現代短歌社、3000円。