副題は「東アジアのなかの蝦夷地」。
アイヌの歴史や文化を日本史の枠組みを超えた東アジア全体の中で捉えるとともに、和人とアイヌの関わりや交流がどのような意味を担ってきたのかを解き明かしている。
とにかく知らないことが多いので、ワクワクしながら読んだ。
アイヌの活動は中世や近世でも同様であって、樺太アイヌの山丹交易(沿海州方面との交易)にみられるように、明・清の中国に求心する北東アジアと日本とをつなげる役割を果たしていた。
近年、蝦夷錦に代表される北方の交易が注目を集めているが、そこで大きな役割を果たしたのがアイヌであった。中国―沿海州の諸民族―樺太・北海道アイヌ―日本というルートである。
中世の武家政権が征夷大将軍として出発し、その後室町・江戸幕府と継承されてきたことは、現実的な重みはともかく、夷狄・蝦夷が武家権力の国家意識のうえで絶えず再生産されつづけるということでもあった点を見逃してはなるまい。
古代には蝦夷征討で有名な坂上田村麻呂など実際的な意味を持っていた征夷大将軍が、後に武家の棟梁の肩書きのように鎌倉・室町・江戸幕府に引き継がれていく。それは日本史で習った話であったが、これまでその意味を考えたことがなかった。
松前藩に与えられた対アイヌ交易独占権は、幕府の外交体制全体としてみるならば、対馬藩による朝鮮、薩摩藩による琉球と、国境を接する場所での異国押えの管理システムの一環をなすものであったこともつとに指摘されてきたところである。
こうした領土意識は、江戸時代にとどまらず、近代以降の日本へとつながっていくものだろう。2001年まで中央省庁には北海道開発庁・沖縄開発庁が存在したし、現在の北方領土・尖閣諸島・竹島といった領土問題の舞台にもなっている。
1994年9月25日、朝日選書、1400円。