2020年04月26日

「塔」2020年4月号(その2)

基板二個取り替へられて機嫌よきテレビと過す大晦日(おほ
つごもり)を            安永 明

映りの悪いテレビを修理してもらったところ。「機嫌よき」と擬人化したことで、古い友人と一緒に年末を過ごしている感じが生まれた。

点となるあたりに森はあるのだろう鳥かろがろとビルを越え
ゆく                黒木浩子

町中のビルを越えて行った鳥の群れがやがて小さくなって見えなくなる。遠くその方角に、鳥のねぐらとなる森があるのを想像している。

寒いから寒いぶんだけ着られずに乾くだろうと思うだけ着る
                  松岡明香

冬は洗濯物がなかなか乾かない季節。寒いからと言って何枚も着るのではなく、洗濯のローテーションを考えながら着なくてはならない。

読点に宿る悲しみ 自転車は漕げば漕ぐほど遠くに行ける
                  長谷川麟

初二句と三句以下の取り合わせがいい。句点と違って読点には、書き手の思いがこもる。自転車に乗って悲しみを紛らしているところか。

今ならば何メートルに達するや田島直人の三段跳びは
                  前田 豊

上句の発想が面白い。ベルリンオリンピックで優勝した時の世界記録16m00を現在の記録と比較すると、圧倒的な強さが伝わらない。

ハツ四つ串いつぽんにつらぬかれ鶏(とり)は四羽も殺されて
ゐる                千葉優作

「ハツ」は心臓なので一羽から一つしか取れない。一本の焼き鳥の串に四羽の命が刺さっていると思うと、何だか食べるのが怖くなる。

妹に似てというより父に似てまた祖父に似て甥の目鋭し
                  丸山恵子

妹の息子であるが、男性ということもあり、その眼差しから父や祖父の顔が思い浮かんだのだ。父や祖父はもう亡くなっているのだろう。

別れたくなさすぎたから居酒屋でぐじゃぐじゃのシクラメンに
なった               蔵田なつくら

相手から別れ話を持ちかけられて、夜の居酒屋で大泣きしているところ。「シクラメン」がおもしろい。顔全体に涙が広がっている感じ。


posted by 松村正直 at 20:53| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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