こころより体は孤独かもしれずぼんやりと見る病窓の夜
岩野伸子
孤独と言うと一般的には心の話と思うが、体が孤独なのだと言う。入院中のどこにも行けず部屋に閉じ込められている感じがよく伝わる。
安政地震に両脚残しし折鳥居生田の森に奉られてあり
佐近田栄懿子
1853年の地震で倒壊した鳥居の笠木や礎石が生田神社に祀られている。支柱の一本は同じ神戸の金星台で石碑に使われているらしい。
大晦日も夜勤といいし子のために年越しそばをラインでおくる
大森千里
年越しそばも食べずに働いている子のことを思って、ラインで画像を送ったのだろう。離れていても一緒にそばを食べている気分になる。
ふるさとはいつも誰かが死ぬところ帰省のたびに香典包む
数又みはる
上句の断言に重みがある。故郷を離れてから長い歳月が過ぎ、今では親戚や知り合いが亡くなった時にだけ訪れる場所になっているのだ。
水面にふる雪のやうにとどかないさびしさがある「いいね」は
しない 澄田広枝
親しい人のTwitterやFacebookの書き込みを読んで、自分の思いが届いてないことを感じたのだ。「いいね」しないのがせめてもの抵抗。
量られて買われてそして溶かされて何処へゆくのか祖母の
指輪は 中山悦子
亡くなった祖母の金の指輪を売却したのだ。形見の指輪だったものがただの物質としての金となり、祖母の記憶も遠いものになっていく。
了解と送りて終はりし筈なるにその了解に返信がくる
大島りえ子
電話を切るタイミングも難しいが、メールでも時々こういうことがある。もう一回返信すべきか、もうこのままで止めていいのか迷う。
ポリタンの上で寝ている猫もいる十日えびすの夜店のかたえ
川俣水雪
1月10日に主に西日本の神社で行われる行事。水や灯油を入れるポリタンクの上に寝ている猫が、何とも良い雰囲気を醸し出している。