国語学者・言語学者・アイヌ語学者として、また石川啄木の友人としても知られる金田一京助。戦前から戦後にかけての彼の軌跡をたどりつつ、アイヌに対する差別意識、戦前・戦中の体制翼賛、戦後も変らない天皇制擁護といった問題点を取り上げた本。
記録するという一点を除いてしまえば、金田一ははたしてアイヌ文化への敬意をもっていたのか、疑問とせざるをえない。つまり、ある古老が記憶していた口承文芸をすべて「記録」してしまえば、その古老は金田一にとって何の存在意義もなくなる、というに等しい。
「平時」ではできない「改革」を戦時体制下におこなおう、という主張である。これは国語協会全体の論調でもあるのだが、容易に敗戦後の「改革」を主張する根拠ともなっていく。
要は、金田一もふくめて、敗戦をどの程度真剣にうけとめていたのかという問題である。「作法」にしたがうのが敬語だとすれば、民主主義も「作法」としてしかうけとっていなかったことになるだろう。
このようなかなり厳しい指摘が続くのだが、これらは金田一個人の問題というよりも、近代以降の日本が抱えた問題と見た方が良いと思う。その問題は現在も解消されずに残っている。
金田一がアイヌ語研究に進んだのは、もともとアイヌ語に興味を持っていたからではなかった。師の上田万年の日本語の系統を探るプロジェクトにおいて弟子たちが各言語に配置された結果であったのだ。
・橋本進吉 古代日本語
・小倉進平 朝鮮語
・伊波普猷 琉球語
・金田一京助 アイヌ語
・後藤朝太郎 中国語
(・藤岡勝二 満洲語、蒙古語)
著者が「日本帝国大学言語学」と名付けるように、言語の研究もまた当時の政治や社会の状況と密接に結びついたものだったのである。
2008年8月12日、平凡社新書、880円。