副題は「ポストコロニアルな旅へ」。
サハリン(旧樺太)、旭川、青森という三つの地域への旅行記。単なる旅の記録ではなく、旅を通じて歴史・国家・民族・政治・文化など様々な問題について考察を深めていく。
日本で教育を受けると、先住民族であるアイヌやヴィルタのことや、彼らのオホーツク海での交易のことなどは、ほぼ触れられることがない。その代りに、自然と共生する、絶滅をひっそりと待つばかりの穏やかな存在としてのステレオタイプが定着することになる。
北海道にある神社は非常に興味深い。この地は、明治維新の後で「北海道」と名付けられ、屯田兵を入植させていったため、この地の神社は神仏が習合していた歴史を持たないことになる。
開拓事業以後、田畑が開かれ、稲の品種改良を経て、東北は日本の「米どころ」となり、現在は豊かな生活を営むことができるようになった、という日本という国家のストーリーが出来上がる。これが、「銀シャリ信仰」に基づく発展段階史観であり、それを支える「(日本の)稲作イデオロギー」である。
著者は旅をすることで認識やものの見方、価値観などが変化し、自分自身が変ることを大事にしている。自分が変らない旅は単なる移動に過ぎないということだろう。
2019年1月30日、緑風出版、2000円。