2020年04月05日

藤島秀憲歌集『ミステリー』

著者 : 藤島秀憲
短歌研究社
発売日 : 2019-10-11

456首を収めた第3歌集。

二週間ぶりのわたしの笑い声わたしは聞きぬ中野まで来て
駅から五分の町にわが住みまだ知らぬ六分の町七分の町
「自由業ねえ」と小首をかしげつつコーヒーはまだわれに出されず
わが腰の湿布は燃えるゴミにして日曜に貼り火曜に剝がす
親がもと子がもの泳ぐ水の面にわがもの顔の伊右衛門が浮く
おのが名を投票用紙に書きしという父の陽気をわれ受け継がず
吹きていし風しずまりぬ池の面に映れる塔を鴨が横切る
箸置きのある生活に戻りたり朝のひかりが浅漬けに差す
若き葉に蓋されている並木道ふぁいおーふぁいおー野球部がくる
せせらぎの音に消される雨の音 紐を二度ひき部屋を暗くす

1首目、長らく笑っていなかったことに気づいたのだ。
2首目、駅と家を往復するだけの生活が続いている。
3首目、不動産屋で部屋を借りる場面。自由業だと借りにくい。
4首目、毎週のルーチン。火曜が燃えるごみの日なのだろう。
5首目、「が」「も」の音の響き合いが楽しい。
6首目、選挙に来て、ふと亡くなった父を思い出したのか。
7首目、風が吹いている間は水面が揺れて塔の像はぼやけていた。
8首目、結婚して二人の暮らしが始まったところ。小さな幸せ。
9首目、「ふぁいおー」が実際の掛け声をよく表している。
10首目、旅先の宿に泊まった場面。「紐を二度ひき」が良い。

2019年9月27日、短歌研究社、2500円。

posted by 松村正直 at 00:21| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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