2020年03月29日

「塔」2020年3月号(その2)

手袋をはめた朝から冬だから落ち葉の道を立ちこぎでゆく
                 森 雪子

冬だから手袋をはめるのではなく、手袋をはめたから冬なのだという把握が面白い。寒さに縮こまらずに、自分を奮い立たそうとする。

全身に父の血母の血鳴り響くわたしはとてもいびつな楽器
                 田村穂隆

両親の血が自分の身体に流れていると思うと、好悪の入り混ざった感情が湧くのだ。そんな自分を「いびつな楽器」と表現したのがいい。

つぎつぎと二百の画面は暗みゆき二台の「社員さん」が灯りぬ
                 栗山れら

200台のパソコンの並ぶ職場に、正社員はたったの二人しかいない。定時にパートや派遣の人が仕事を終えた後も、その二人だけは残る。

スコープに見ゆる胃の荒れはわたくしのストレスにあらず
ハイターの跡         故 柴田匡志

病院で胃カメラの検査を受けている場面だろう。胃の内部に漂白剤の跡が残っている。自殺を企図して漂白剤を飲んだことがあったのか。

茗荷には茗荷にしかない色がある細く刻みて豆腐に載せる
                 丸山順司

ピンクと緑と黄色の混ざり合った独特な色合いをしていて、確かに茗荷色とでも呼ぶしかない。白い豆腐の上に色が映えて美味しそうだ。

どれよりも高く担がれヨコスカを米兵神輿がねりあるきゆく
                 北島邦夫

「よこすかみこしパレード」に米軍基地の兵士たちも参加している。アメリカ兵は背が高いので、数多くある神輿の中でも一番高くなる。

五十年前に出会いし三つ編みの少女が今はわれに指図す
                 坂下俊郎

「少女」=現在の妻ということだろう。ユーモアのある歌。あれこれ妻に指図されながら、三つ編みの少女だった頃を思い出している。

posted by 松村正直 at 00:31| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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