1996年刊行の単行本も持っているのだが、読書会のために文庫版を買って再読。懐かしい。
てのひらにてのひらをおくほつほつと小さなほのおともれば眠る
かの家の玄関先を掃いている少女でいられるときの短さ
井戸の底に溺死しているおおかみの、いえ木の枝に届く雨つぶ
テーブルの下に手を置くあなただけ離島でくらす海鳥(かもめ)のひとみ
柿の木にちっちゃな柿がすずなりで父さんわたしは不機嫌でした
七人の用心棒にひとつずつ栗きんとんをさしあげました
信じない 靴をそろえて待つことも靴を乱して踏み込むことも
お別れの儀式は長いふぁふぁふぁふぁとうすみずいろのせんぷうきのはね
気持ち悪いから持って帰ってくれと父 色とりどりの折り鶴を見て
羽音かと思えば君が素裸で歯を磨きおり 夏の夜明けに
1首目、相聞歌としても、子を寝かし付ける歌としても読める。
2首目、上句と下句が「少女」を蝶番にしてつながっている。
3首目、「狼と七匹の仔山羊」などの童話のイメージが下敷きか。
4首目、おとなしくかしこまった表情をしているのだろう。
5首目、回想のシーンを見ながら現在の私が喋っている味わい。
6首目、「用心棒」と「栗きんとん」の取り合わせがおもしろい。
7首目、初句切れ一字空けの威勢の良さ。受身でも能動でもなく。
8首目、ひらがな表記が効果的。催眠術に掛けられていくみたい。
9首目、確かに本物の鶴は白いのに、千羽鶴はなぜか極彩色だ。
10首目、「はおとか」「はだかで」「はをみがき」と音が響く。
2019年10月10日、ちくま文庫、700円。