副題は「二〇一五年パリ同時多発テロ事件・その後」。
「心の花」「パリ短歌」所属の作者の第1歌集。短歌136首と作者が撮った写真75点が収められている。
にんげんの死にゐる重み抱きたるマリアにほそき蠟燭ともす
汗のにじむ肌(はだへ)のごとく街の灯を浮かべて昏く流れゆく川
人に名を初めて呼ばるその声の新しきまま夏となりゆく
国籍を再び問はるテロ警戒巡視パトカー戻り来しのち
空港は風の立つ場所 セキュリティゲートを二回裸足でくぐる
坂道の続くゆふぐれ死んでゐる魚を提げて女歩めり
座りゐる(だらう)ギターを弾く(らしき)女、キュビズム風の絵画に
1首目、教会のピエタ。「にんげんの死にゐる重み」に体感がある。
2首目、夜の川の光景。人体に喩えた初二句が独特だ。
3首目、姓ではなく名で呼ばれることの喜び。
4首目、テロの後、自分が外国人であることを意識せざるを得ない。
5首目、靴も脱いで「裸足で」通らなくてはならないのだ。
6首目、「死んでゐる」と捉えると日常の光景が違って見えてくる。
7首目、キュビズム風の絵なので、はっきりと断言はできない。
2020年2月20日、KADOKAWA、2000円。