ぴよんぴよんと幾度か芝地を跳びしあと畑岡奈紗のショット
は伸ぶる 澤崎光子
上句だけだと何のことかわからないが、下句でゴルフの歌だとわかる。何度かバウンドした後でフェアウェイを転がりつづけるボール。
九冊の十二国記を読み返す新たな旅を深めるために
高松紗都子
昨年18年ぶりに新作長編が刊行された小野不由美『十二国記』シリーズ。新作を読む前に、じっくりと既刊分を読み直しているのだ。
抱かれたいけど抱かれたら暑くなり仔犬は居場所なきやうに
鳴く 岡本 妙
最初は人間の話と思って読むのだが、下句で仔犬を抱いている場面とわかる。甘えてすり寄ってきたものの、すぐにまた逃げようとする。
「二百十日、二百十日」と祖母は言い家中の雨戸閉めてまわ
りぬ 雅子
台風が近づいている場面。「二百十日」という昔ながらの言い方で台風に備えている祖母。緊迫した場面だが、どこか楽しそうでもある。
アルバイトを叱る怒声に丼をただ見つめおり緑のぐるぐる
榎本ユミ
他人が大声で叱られるのを聞いているのは、気分の良いものではない。ラーメン鉢の縁に描かれた模様(雷文)を見ながらやり過ごす。
なにもせずなにも産まずに終えし日の枕辺をゆく足ほそき蜘蛛
亀海夏子
特に何をするでもなく一日が過ぎて寝床についたところ。「足ほそき」という具体がいい。目に入った蜘蛛の姿をじっと見つめている。