ポケットの中で洗濯されているような気持ちで新宿にいる
長谷川麟
大勢の人が行き交う新宿の雑踏にいる心細さと、めくるめくような感覚。それを四句目までの長いユニークな比喩がうまく伝えている。
雪うさぎの二円切手買ふ 二千万必要といふ国に老ゆべく
森永絹子
郵便料金の値上げに伴ってよく使われるようになった2円切手。郵便局で「二円」の切手を買いながら、老後「二千万」円問題を思う。
木枯らしに二度も三度も庭を掃く柿の葉擦れに耳傾けて
澤田清志
風が強く吹いて、さっき掃いたばかりなのにまた葉が散っている。「二度も三度も」は苛立ちのようだが、下句を読むとむしろ穏やか。
玉ねぎを欲しいといへば二十キロ持たせてくれる兄のやうな人
森 絹枝
北海道に住む作者。この知り合いの農家はスケールも大きいし、気持ちも大きい。ちょっと欲しいと言ったら箱ごとドーンとくれたのだ。
真剣に遊んでこなかったんかなあコマもあやとりも教えられ
ない 吉田 典
上句の述懐がいい。コマの回し方やあやとりの取り方を子どもに教えようとして、「あれ?どうだったっけ?」と困ってしまったのだ。
ふるさとの島は遠くて東京の島を訪ねる ある晴れた日に
紫野 春
島に生まれ育って現在は東京に住む作者。島とはまるで正反対の環境にいて、時々島が恋しくなるのだ。近場の島の空気を吸いに行く。