2020年02月16日

小田鮎子歌集『海、または迷路』

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「お母さん」と私を初めて呼ぶ人の交付する母子健康手帳
名も知らぬ子ども同士が砂場にてトンネルひとつ貫通させつ
自転車の前籠に乗る大根と子ども段差に同時に跳ねる
桃太郎待合室に読みおれば鬼退治する前に呼ばれつ
自らをママと呼びつつおのずからママに侵食されゆくらしも
住宅の建ち上がるまでは集い来て仕事場とする労働者あり
子守りして一日(ひとひ)籠もるに帰り来し夫は今日の猛暑を嘆く
歩むとき背負うリュックの水筒に氷涼しき音を立てたり
冷え切らぬ握り飯二つ通勤の鞄に詰めて地下鉄に乗る
サッカーの試合を終えし子どもより砂落つ体の一部のごとく

「八雁」所属の作者の第1歌集。

2008年以降の作品と、2003年刊行の私家版歌集『月明かりの下 僕は君を見つけ出す』の抄録、あわせて413首を収めている。

1首目、妊娠中に役場の人に言われた「お母さん」。
3首目、「大根」と「子ども」を同列に扱っているのが面白い。
4首目、クライマックスにたどり着く前に順番が来てしまう。
7首目、猛暑も大変だが、一日子どもと向き合うのはもっと大変。
9首目、傷まないように冷ましてから入れたいが朝は時間がない。

2019年12月3日、現代短歌社、2500円。

posted by 松村正直 at 08:57| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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