明治34年から38年の埼玉県を舞台に、家が貧しくて進学できず小学校の教師となった主人公、林清三の生活や心情を描いた小説。熊谷、行田、羽生、弥勒、中田といった町の様子や利根川の風景なども記されている。
「湯屋で、一日遊ぶような処が出来たって言うじゃありませんか。林さん、行って見ましたか」(・・・)
上町の鶴の湯にそういう催しがあるのを清三も聞いて知っていた。夏の間、二階を明放して、一日湯に入ったり昼寝でもしたりして遊んで行かれるようにしてある。氷も菓子も麦酒(ビール)も饂飩も売る。ちょっとした昼飯位は食わせる準備も出来ている。浪花節も昼一度夜一度あるという。
これは、まさに現代の「スーパー銭湯」ではないか。何と100年以上も前からあったとは!
明治という時代について知るための資料のつもりで読んだのだが、すこぶる面白かった。田山花袋、いいな。
1931年1月25日第1刷、2018年3月16日改版第1刷、
岩波文庫、740円。