2011年に講談社から刊行された『聖地にはこんな秘密がある』に加筆・修正して文庫化したもの。
クボー御嶽(沖縄)、大神神社(奈良)、天理教教会本部(奈良)、稲荷山(京都)、靖国神社(東京)、伊勢神宮(三重)、出雲大社(島根)、沖ノ島(福岡)の8か所の聖地を訪れ、聖地とは何か、聖地には何があるのか、私たちは聖地に何を求めているのか、といった問題を考察した本。
大神神社に限らず、古代のたたずまいを残す神社一般に言えることだが、神仏習合の信仰が受け継がれていた中世から近世にかけて、それぞれの社殿は今日とは相当に異なる姿をしていた。(・・・)だがそのことは、今日では秘密にされている。
現在では、神社を訪れた参拝者は、社殿の前で拍手を打つことが一般化している。だが、参詣曼荼羅の参拝者は、一人として拍手など打っていない。皆、社殿の前では合掌している。
最近の学会の議論では、十六丈の高さがあったことがほぼ前提にされてしまっている。かつての出雲大社が高ければ高いほど、その価値は高まる。(・・・)考古学の復元の作業では、どの遺跡でも、やたら大型の建物が存在したかのような方向にむかいやすい。
戦没者の多くは若く、まだ、結婚し自らの家庭を営んではいなかった。日本の伝統的な村社会では、死者は子孫による弔いの対象になったが、戦没者には子孫がいない。靖国神社に合祀されたことの背景には、そうしたことが関係しているであろう。
どの指摘も重要な論点を含んでいる。聖地という場所は死生観や伝統について深く考えさせるところなのだった。
2019年1月29日、光文社知恵の森文庫、780円。