副題は「天守閣からみえる戦後の日本」。
2007年に筑摩書房より刊行された本の文庫化。初出は「ちくま」2003年1月号〜2004年12月号の連載。
皇居(江戸城)を手始めに西へ西へと進んで首里城に至るまで、全国の「城」および「城のようなもの」をめぐりつつ、近代・現代の日本について考察した本。むちゃくちゃ面白い。
明治になって無用の長物となった城が、その後どのような歴史をたどったのか。そして、人々は城をどのように扱い、城に何を託してきたのか。城を通じて日本の近現代史が浮び上がってくる。
象と城は一見ミスマッチだが、実は相性がとてもいい。ともに、戦後は平和の象徴となったからだ。
最初の鉄道は、明治五年(一八七二)に新橋・横浜間を走った。(・・・)東京と名を改めたばかりの町から見れば、濠の外で、鉄道の侵入を食い止めたことになる。
コンクリで建てれば、また空襲があっても焼かれないという気持ちが、そのころの日本人にはあったのではないか。昭和三十年代を迎えると、全国各地で、お城がこぞってコンクリ製で建てられ始める。
首里城を落城させたアメリカは、その跡地に大学を建設した。危険な軍事国家日本を民主教育によって根本から改造するという占領方針によるものだった。
どのページを読んでも著者の博識ぶりに驚かされる。知識が豊富なだけでなく、それを縦横無尽に活かして鮮やかに論を組み立てていく。
城について論じた本はたくさんあるけれど、著者のように「松代大本営」や「戦艦長門」を「城」に含めて考察した人はいないだろう。とにかく発想やスケールが桁違いなのだ。
そもそも「城」とは何なのか。ホンモノの城とニセモノの城は区別できるのか。そんな本質についても考えさせられる。
2018年11月10日、ちくま学芸文庫、1400円。