2019年12月29日

「塔」2019年12月号(その3)

鵺(ぬえ)に似たぼくのこころできみを抱く 鵺は意外とかはいいと思ふ
                    宮本背水

「鵺」は伝説上の気味悪い怪物だが、下句「意外とかはいい」に意外性がある。人を抱く時のふだんとは違う自分を楽しんでいるようだ。

願かけに生やしはじめて三十五年子らはひげ無きあなたを知らず
                    宮内ちさと

夫の願いごとは、生まれてくる、或いは生まれたばかりの子に関することではないかと思う。「三十五年」という年数に重みを感じる。

綿飴の膨らみを待つ額から流れる汗の甘そうなこと
                    中森 舞

お店の人が割り箸に綿飴を巻き取っていく姿を見つめている子ども。夏祭りなのだろう。あたりにはザラメの甘い匂いが漂っている。

川砂の白さを踏みて釣り人は夏のをはりの標本となる
                    森尾みづな

川岸に立ったままじっと動かない釣り人の様子。「夏のをはりの標本」がいい。時が止まって風景に閉じ込められてしまったみたい。

窓越しに口をパクパクさせながらこっちへこいと合図する姉
                    王生令子

声は聞こえないのに「こっちへこい」と言っていることがはっきりわかる。行かないと怒られそうだ。姉と妹の微妙な力関係を感じる。

クロワッサンみたいな人だいい色に焼けてはいるが迫力がない
                    福西直美

「クロワッサンみたいな人」という表現が面白い。人柄は良いのだけれど、押しが弱い。悪い人ではないんだけどねえ、という感じか。

水槽の青い魚を見るようにアイスケースの前に立つ人
                    竹内 亮

いろいろなフレーバーのアイスがケースの中に並んでいる。それを覗き込みながら、どれにしようかと目をきょろきょろ動かしている人。


posted by 松村正直 at 07:43| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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