2019年12月28日

池内恵著 『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』


【中東大混迷を解く】シリーズの1冊目。

複雑に入り組む中東問題を理解する手掛かりとして、1916年にイギリスとフランスの間で結ばれたサイクス=ピコ協定に焦点を当てて論じた本。

第1次世界大戦後のオスマン帝国の解体から近年のイスラム国の台頭、シリア内戦、クルド人問題まで、中東世界の基礎的な部分がよくわかる内容となっている。

ある民族が国家の設立や自治を獲得するか否か、自らの政府を持って統治することができるか否かは、国際情勢、特にその時々の諸大国あるいは超大国の意向、そして大国間の交渉と協調に大きく依存する。
オスマン帝国支配下の諸集団には「民族」という概念はまだ未分化だった。それが西欧列強の介入が及び、社会の近代化が進むにつれて、言語の相違や、宗教・宗派による共同体のつながりが、国民国家を構成する民族という観念の核になった。
極めて冷酷な現実は次のようなものである。ある領域を統治する勢力にとって、自らの統治に服すことを潔しとしない人間が難民として流出していくことは、統治のコストを抑えられるが故に、好都合である。

政治も国際関係も、理念と現実、正義と武力の間で何とか着地点を見つけていくしかない。これは何も中東に限った話ではなく、例えば東アジアにおいても同様なのだろう。

2016年5月25日、新潮選書、1000円。

posted by 松村正直 at 08:06| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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