2019年12月27日

「塔」2019年12月号(その2)

「丸茄子の輪切りに味噌を挟むのは北信(ほくしん)流」と南信(なんしん)の人
                    青木朋子

「北信」は長野県北部、「南信」は南部のことだろう。他県の人から見れば同じ長野県なのだが、地元の人にとっては大きな違いなのだ。

首振りの扇風機壁に打ち当たりあくまでも首振らんとしをり
                    野 岬

自宅でも時々目にする光景だが、短歌に詠まれるのは珍しい。センサーなどで制御されてはいないところに昭和的な懐かしさを感じる。

鮎釣るは年寄りばかり思い出を拾うがごとく馬瀬川に立つ
                    加藤武朗

鮎釣りをする人も年々減っているのだろうか。「馬瀬川」という固有名詞がいい。川のあちこちに長年釣りをしてきた思い出があるのだ。

おとうとがページをめくり王朝のひとつが滅ぶ初夏ひるさがり
                    中田明子

世界史の教科書などを読んでいて、王朝が興ったり滅んだりするのだ。ページから3Dホログラムが立ち上がってくるみたいに感じる。

父母の木箱の雲丹は売られおり金の「特選」シール付けられ
                    逢坂みずき

両親の獲ったウニが店で立派な姿で売られているのを見て誇らしく感じている。どんなウニでも良いのではなく、選ばれた高級なウニ。

くりかえす朝焼けに身を撓らせていくどもいくどもお前を産むよ
                    魚谷真梨子

出産の時の記憶が何度も甦ってくるのだろう。子を産むというのは、産んで終わりではなく、永遠に産み続けることなのかもしれない。

競泳の選手の腕のかたちしてざぶりと波が海に飛びこむ
                    松岡明香

曲線を描く波頭の形をクロールの腕に喩えたのがおもしろい。波はもともと海の一部なのだが、まるで別の生き物のように感じられる。

posted by 松村正直 at 10:17| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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