2019年12月26日

マカロフのこと

「角川短歌」1月号の連載「啄木ごっこ」で、啄木の「マカロフ提督追悼」という詩を取り上げた。マカロフはロシア海軍の太平洋艦隊司令長官で、日露戦争において戦死した人物。

このステパン・マカロフ(1849‐1904)に関する小ネタを一つ。

かつて樺太の東海岸に知取(しるとる、しるとり)という町があった。知取炭鉱や王子製紙知取工場などがあり、人口は約1万8千人。


  P1070596.JPG


昭和10年5月に樺太を訪れた林芙美子は、樺太庁の置かれた豊原から敷香へ鉄道で向かう途中に、この知取を通っている。

知取の町は豊原よりにぎやかかも知れません。それに第一活気があって、まるでヴォルガ河口の工場地帯のようでした。灰色の工場の建物はやや立派です。煙が林立した煙突から墨を吐き出しているようなのです。ここでは新聞紙やマニラボール、模造紙、乾燥パルプをつくっています。(「樺太への旅」)

工業都市として賑わっていた様子がよくわかる描写だ。

この町は現在、「マカロフ」という名前になっている。これはステパン・マカロフの名前にちなんで名づけられたもの。第2次世界大戦に勝利したソ連が、日露戦争で戦死した英雄の名前をこの町に付けたのだ。

もともと南樺太が日露戦争後に日本に割譲された土地であったことを思えば、そこに込められた意味は自ずと明らかだろう。


posted by 松村正直 at 23:51| Comment(6) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マカロフ提督と聞いて、明治43年生まれの祖母が教えてくれた〈しりとり歌〉を思い出しました。卑語や差別用語やヘイトスピーチに抵触しそうな表現のオンパレードですが、とりあえず全文記しますと、

陸軍の 乃木さんが ガリガリ山でどーしゃーす スズメ メジロ ロシヤ 野蛮国 クロバトキン キンダーマ マグローフ ふんどーし 締めた タンキーリ リコッショーの禿げ頭 饅頭食って皮残し 尻の穴も十文字 地獄の道も金次第 意地悪爺さんポチ借りて 帝国万歳大勝利(戻る)

一般には「陸軍の乃木さんが凱旋す」で、各地にいろいろなバージョンが存在するようです(祖母は三重県四日市市生まれ育ち)。
クロバトキンはクロポトキン、マグローフがマカロフ提督、リコッショーは李鴻章のようですが、タンキーリだけが意味不明です。ロシアか清国にそんな名前の人がいたのでしょうか。
「マカロフ提督追悼の詩」とはエラく情趣の違った俗謡で、失敬致しました(思い出しながら書いていて、汗かいてしまった・・・)。

Posted by 小竹 哲 at 2019年12月27日 10:34
しりとり歌、面白いですね。
当時の一般の人々の感覚がよく窺えます。

「クロパトキン」は日露戦争当時のロシアの満州軍総司令官の名前でしょう。「黒鳩」などと茶化した文章を見かけたことがあります。革命家・アナーキストの「クロポトキン」とは別人ですね。
Posted by 松村正直 at 2019年12月27日 12:42
クロパトキン満州軍総司令官でしたか!? 確かにこの文脈でアナーキストは場違いかと・・・ありがとうございました。
タンキーリは、ひょっとしたら痰切り飴のことかもしれません(饅頭も出て来るくらいですし)。
Posted by 小竹 哲 at 2019年12月28日 11:45
いくつか似たような歌詞を調べると「痰切り」という表記もありますね。地域によっていろんなヴァリエーションがあって、おもしろいです。
Posted by 松村正直 at 2019年12月28日 12:47
創成期の宝塚少女歌劇の機関誌『歌劇』(大正13年3月号)を読んでおりましたら、投稿欄に次のような一節が出てきました。
「日露戦争に於て露軍の野戦司令官黒鳩均将軍は退却が旨いので古今の名将なりとの賞賛を博し得た例も御座れば」
黒鳩のことを伺ってなければ流してしまうところでした。筆者はジャーナリストで随筆家で自称ペラゴロの青柳有美(1873-1945)、やはりどことなくおちょくった文章ですね。年跨ぎのネタで失敬致しました。
Posted by 小竹 哲 at 2020年01月13日 16:39
「黒鳩均」でクロパトキンですか。なるほど。
「退却が旨いので古今の名将なり」は、かなりの皮肉ですね。
Posted by 松村正直 at 2020年01月15日 18:44
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