明治期の日本がどのように西洋風の建築を取り入れていったのかを記した本。2015年6月〜2017年7月に「週刊新潮」に連載された文章が元になっている。
コレラ対策の為に水道が普及したこと、シンデレラのガラスの靴が英語では「スリッパ」であること、洋館の特徴であるヴェランダの巡る様式は本場のヨーロッパにはないことなど、意外な話がたくさん載っている。
和風とも洋風ともつかないスリッパという鵺(ぬえ)的履物によって和洋の矛盾を回避している。
あまりに日本列島は木材資源に恵まれ、ユーラシア大陸では一般化した石、煉瓦、アーチの建設用三点セットの導入は必要なかったのだろう。
古代のギリシャとローマの文化を復興しようと志したルネッサンス時代の人々は、ギリシャについては知らなかった。ギリシャはトルコの支配下にあり訪れることはできなかったからだ。
工部大学校造家学科の初代教授ジョサイア・コンドルのもとには4名の一期生がいた。曽禰達蔵・辰野金吾・片山東熊・佐竹七次郎。前の3名が有名な建築家となったのに対して、佐竹は今ではほとんど知られていない。そんな佐竹の建築についても、この本はきちんと言及している。
2019年10月20日、新潮新書、800円。