2019年12月19日

「ひとまる2」

平成10年生まれのメンバーによる短歌同人誌。

電話でも風が強いね なれるなら君にとっての船とか樹とか
                    石井大成

電話の向こうから風の音がして相手の心細さが伝わってくる。一字空けの後の「なれるなら」がいい。君の力になりたいという強い思い。

さみしいは寒さのそくど立ち漕ぎで坂を下れば月は遠のく
                    今村亜衣莉

「さみしいは寒さのそくど」に強引な説得力がある。さみしさを振り切るように、寒い夜道を自転車でスピードを出して走っていく。

裏向きに売らるる柿に折り紙のような折り目の幾筋かあり
                    狩峰隆希

蔕を下にして並んでいる柿の実。四角っぽい実に対角線のように入った筋を「折り紙のような折り目」と喩えたのが秀逸。美味しそうだ。

OSの更新未了の三歳が「さんしゃい」と言う二本の指で
保育士の「おやすみなさい」に潜みたる命令形の影濃かりけり
五時〇一分これはサービス残業のたかいたかいでさよならをする                   久永草太

保育園を舞台にした連作。1首目、口では三歳と言っているのに、指はまだ二歳の時のまま。2首目、言われてみれば確かに命令形だ。園児におとなしく昼寝してもらわないと保育士は困る。3首目、就業時間は五時までだが、子ども相手なのできっかりには終われない。

2019年11月24日。

posted by 松村正直 at 23:25| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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