2019年12月09日

池内紀著 『闘う文豪とナチス・ドイツ』


副題は「トーマス・マンの亡命日記」。

1933年にドイツ国外に出てから1955年に亡くなるまでのトーマス・マンの日記を手掛かりに、当時の社会状況や人々の動向を考察した好著。おススメ。

もとは『トーマス・マン日記』刊行にあわせて紀伊國屋書店の季刊誌「scripta(スクリプタ)」に2009年冬号から2015年夏号にかけて連載されたもので、時代順に26のトピックが取り上げられている。

国外講演からの帰国をナチスに差し止められ、スイス、アメリカでの亡命生活を余儀なくされたトーマス・マン。亡命先から精力的にナチズムに対する批判を続け、ようやく1945年にナチス体制の終焉を迎えたものの、安らかな晩年は訪れなかった。

そんな彼の日記には膨大な量の人名や社会的な事件が記されている。

これは私的な備忘録ではありえない。一個人が書きとめた年代記(クロニクル)の性格を色こくおびており、亡命者という特殊な位置から同時代をつづっていった。

例えば、1936年に日本で起きた二・二六事件についても、トーマス・マンは日記に書き留めている。

「――東京からの報道を総合すると、反乱を起こした殺人者たちに強い共感が寄せられており、軍部は、クーデタが『不成功』に終わったにもかかわらず、実際上はクーデタの実をあげたというふうに、理解出来よう」

何という的確な分析だろう。二・二六事件後に日本の軍国主義化がさらに進んでいく状況をこの時点で既に見通している。世界的なファシズムの伸張に対する強い危惧が、こうした記述にも表れているのだ。

2017年8月25日、中公新書、820円。


posted by 松村正直 at 07:51| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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