生返事するときいつもゆふぐれの雁を見送るやうなあなただ
千葉優作
「ゆふぐれの雁を見送るやうな」という比喩が印象的。どこか別のところに心が向いている相手の様子を、少し寂しく思っているのだ。
廊下なぞ歩いちゃ駄目だと言い聞かせ畑で放てば丸虫は行く
北乃まこと
「丸虫」は関西ではダンゴムシのこと。家の外に逃がしてやったのだ。「言い聞かせ」にユーモアがあり、結句にたくましさも感じる。
探し探して伯父を訪ねてくれたりきここが慰霊の最後と言ひき
西山千鶴子
戦死した伯父をかつての戦友が訪ねてきたのだろう。上句では伯父が生きているように感じるが下句の「慰霊」で一首の意味が変わる。
下の子のオマルも積みて行きしころ四国の実家はまだ遠かりき
冨田織江
瀬戸大橋が開通する前の思い出。小さな子どもを連れての帰省は荷物も多くて大変だったのだ。「オマル」という具体がよく効いている。
インベーダーゲームの如く雨粒がつぎつぎ窓を滑りて落ちる
酒本国武
窓に付いた雨粒がつつーっと落ちてくる様子。インベーダーゲームの粗い画面の感じが、滑らかでない落ち方をうまく表していると思う。
晩年はマックシェイクを好みいし祖父の十三回忌が巡る
長谷川麟
上句の具体が祖父の姿を鮮やかに立ち上げている。若者向けの飲み物も抵抗なく受け入れる柔軟さと好奇心。ストローを吸う顔が浮かぶ。