2019年12月05日

「塔」2019年11月号(その3)

生返事するときいつもゆふぐれの雁を見送るやうなあなただ
                 千葉優作

「ゆふぐれの雁を見送るやうな」という比喩が印象的。どこか別のところに心が向いている相手の様子を、少し寂しく思っているのだ。

廊下なぞ歩いちゃ駄目だと言い聞かせ畑で放てば丸虫は行く
                 北乃まこと

「丸虫」は関西ではダンゴムシのこと。家の外に逃がしてやったのだ。「言い聞かせ」にユーモアがあり、結句にたくましさも感じる。

探し探して伯父を訪ねてくれたりきここが慰霊の最後と言ひき
                 西山千鶴子

戦死した伯父をかつての戦友が訪ねてきたのだろう。上句では伯父が生きているように感じるが下句の「慰霊」で一首の意味が変わる。

下の子のオマルも積みて行きしころ四国の実家はまだ遠かりき
                 冨田織江

瀬戸大橋が開通する前の思い出。小さな子どもを連れての帰省は荷物も多くて大変だったのだ。「オマル」という具体がよく効いている。

インベーダーゲームの如く雨粒がつぎつぎ窓を滑りて落ちる
                 酒本国武

窓に付いた雨粒がつつーっと落ちてくる様子。インベーダーゲームの粗い画面の感じが、滑らかでない落ち方をうまく表していると思う。

晩年はマックシェイクを好みいし祖父の十三回忌が巡る
                 長谷川麟

上句の具体が祖父の姿を鮮やかに立ち上げている。若者向けの飲み物も抵抗なく受け入れる柔軟さと好奇心。ストローを吸う顔が浮かぶ。


posted by 松村正直 at 07:25| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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