2019年11月20日

松下竜一と九州

松下竜一は大分県中津市に生まれ、死ぬまでそこに住んだ人である。社会派ノンフィクションの書き手として知られる松下だが、その出発は地元の九州に関することからであった。

初期作品を見ると『風成の女たち』(1972年)は大分県臼杵市のセメント工場誘致反対運動を、『檜の山のうたびと』(1974年)は熊本の菊地恵桐園で生涯を送ったハンセン病の歌人伊藤保を、『砦に拠る』(1977年)は大分・熊本県境の下筌ダムの建設反対運動を取り上げている。

いずれも九州に関するものであることがわかるだろう。

『ルイズ―父に貰いし名は』も、著名な「大杉栄」や「伊藤野枝」、あるいは「アナーキズム」といった視点から描かれているのではない。出発点はやはり九州である。伊藤家が福岡県の今宿にあり、大杉・伊藤の遺児たちはそこで育てられた。作品の舞台は戦後も一貫して福岡周辺である。そうした地域的なつながりから、この作品は生まれている。

発足間もない「平民新聞」の部数を飛躍的に伸ばしていったのは、副島辰巳を中心に始まった福岡・佐賀での街頭販売であった。
レッドパージに対して公然とスト指令を発したのは、電産でも九州だけであった。

松下は「社会派」と呼ばれることが多いが、その視点は常に生活者の暮らしや地域とともにあった。そこが、主義・主張を前面に押し出す書き手との大きな違いだろう。

posted by 松村正直 at 19:21| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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