1991年に中公文庫より刊行された本(単行本は1981年PHP研究所より刊行)に1篇を増補した新版。
「隠岐」「若狭」「伊那」「北海道」「奥津」「鹿児島」「越前」「越後」「佐久」「東京」「京都」「沖縄」の12篇を収録。
ウィスキーと青年をお伴に日本のあちこちを訪れる旅行記。一つ一つの文章に詩人ならではのリズムがあり、単なる旅行案内とは全く違う。戦時中の記憶をたどる旅もあって味わい深い。
ぼくの目に見えた比叡山の稜線は、信長が焼討ちにした延暦寺の「歴史」でもなければ、現在、ロープウエイとケーブル・カーによって頂上までつながれている「観光」ルートでもない。大戦末期、人間爆弾の特攻兵器として登場した「桜花」のロケット基地としての限定された空間なのである。
車窓を流れる越後の白い野と山。ぼくらは金色のウイスキーを飲む。流れ去る銀世界をながめながら、金色のウイスキーを飲んだ瞬間、昨夜の越の寒梅の花々が、われらの体内に、一輪、また一輪と咲きはじめ(・・・)
短歌の旅行詠はつまらないものが多いけれど、こんなふうに自分と旅先の光景との交感を詠んでいくといいのだろうな。
2019年10月25日、中公文庫、900円。


