副題は「定期市の民俗誌」。
学生時代に「市」に興味を持ち始めてから三十年。民俗学者の著者は、大多喜・高知・古川・気仙沼など全国各地の市に通い続けてきた。そこで見聞きしたこと、考察したことなどをまとめた探訪記。
「市」が近郊の海や山をつなぐ経済の場であるとともに人々の交流の場であること、長年にわたって地域の振興に寄与してきたことがよくわかる。また、「市」は災害復興の足掛かりとなったり、参加者の生きがいになったりと、人々の心を支えてもいるのであった。
曜日を定め、一週間という単位でものごとを考えるようになるのは、明治になって暦が世様式に変わってからのことであって、もとは十日が一単位だった。「旬」というのが、それにあたる。
小さな店の、小さな商売。たしか、シキビ一〇〇グラムあたり一〇〇円というその内訳は、山主三〇円、切り子四〇円、そして渡邉さんが三〇円と聞いた。たとえ薄利でも、そのもうけが山主にわたり、切り子の暮らしを助け、街路市にお客さんの笑い声を響かせる。
ナライという風の名は全国的に聞かれるものの、土地によって方角が違うという。山並に沿って吹き下ろしてくる風をそう呼ぶのだそうで、気仙沼の場合は(・・・)北西風がナライとなる。
とても良い本だなあと思って著者について調べると、以前読んだ『行商列車』の方であった。
http://matsutanka.seesaa.net/article/442055416.html
これからも注目しておこう。
2019年4月10日、太洋社、1800円。