コレクション日本歌人選69。
副題は「「愛づる心」に歌の本質を求めた大歌人」。
佐佐木信綱の短歌50首を取り上げて鑑賞・解説した本。
幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ
『思草』
「輸入文学の雰囲気と和歌の型とが合わせられた意欲的な作」と鑑賞にある。なるほど、結句は古典的だが、「葡萄」と「月」の取り合わせには西洋的な新しさを感じる。
まがね鎔(と)け炎の滝のなだれ落つる溶炉(ようろ)のもとにうたふ恋唄
『新月』
明治38年に足尾の溶鉱炉を見学した際の歌とのこと。溶鉱炉と言うと宮柊二や佐藤佐太郎の歌が思い浮かぶが、こんなに早い時期から詠まれていたのだ。
はしるはしる地上のもの皆走る走れ走れ走れ走りやまずあれ
『鶯』
「モダニズム短歌の影響も感じるが、信綱は当時既に六十歳」とある。このパワーはすごい。爆風スランプの「Runner」みたいだ。
2019年5月25日、笠間書院、1300円。