2019年10月29日

小池光と『連山』

ざくざくと佳(よ)きうたに会ふ茂吉『連山』春の香(か)のする両毛線に     小池光『梨の花』

「ざくざくと」というオノマトペがいい。大判小判がざっくざくといった感じに、良い歌がいっぱいあるというのだろう。小池光『梨の花』には斎藤茂吉『連山』を踏まえた歌があちこちに見られる。

北平(ペイピン)にて茂吉が見たる爪長き宦官のことしばしおもひぬ

今日此処に来て爪ながき宦官といふものをはじめて見たり
             斎藤茂吉『連山』

朝鮮の寺にをとめごの尼とあふ斎藤茂吉男(を)ざかりのころ

清涼寺はひそけくありきをとめごの尼も居りつつ悲しからねど
             斎藤茂吉『連山』

牛橇(うしそり)といふものが茂吉の歌にありしづかにしづかにすすみゆきしか

牛橇(うしそり)は吹雪(ふぶき)おとろふる間(ひま)を求めいまし松花江の氷をわたる  斎藤茂吉『連山』

哈爾浜(ハルピン)に斎藤茂吉食ひにける「カウカサス的饌(せん)のシャシリック」

カウカサス的(てき)饌(せん)のシヤシリツク、ツベリヤンク、カリニエル等並びに透明(とうめい)ウオツカ  斎藤茂吉『連山』

茂吉の歌よみて土民の語と出会ふ「土民百万」うんぬんかんかん

山東(さんとう)の土民(どみん)百万年々(としどし)に移動し来れどいづこに居るや  斎藤茂吉『連山』

「家居(かきよ)す」とふ動詞茂吉の歌に見えすなはちわれも一日家居(かきよ)す

下九臺(かきゆうだい)既に過ぎつつ山の間の狭きに家居(かきよ)し畑さへも見ゆ  斎藤茂吉『連山』


歌集『連山』は斎藤茂吉が満鉄に招かれて満州各地や北京、朝鮮を旅行した際の歌をまとめた一冊で、一般的にあまり評価は高くない。

けれども、満州の歴史、風土、交通、生活、風俗などを描いた資料として読むと非常におもしろい。また随筆「満州遊記」と対応させながら読むという楽しみ方もできる。

そんなことをしていると、ああ「満州を訪れた歌人たち」もいつか書いてみたいなあ、という思いがじわじわと湧いてくる。いやいや、とてもそんな時間はありません・・・。

posted by 松村正直 at 10:36| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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