2019年10月27日

「塔」2019年10月号(その1)

落ちて咲くのうぜんかづらに出入りする蟻を見ており梅雨の晴れの間
                林田幸子

道に散った後も鮮やかに咲き続けている凌霄花。そのオレンジ色の花の奥へと黒い蟻が入っていく。色彩が鮮やかに浮かぶ絵画的な歌。

紋白蝶によく会う初夏だ糸屑のような軌跡に時間が止まる
                小川和恵

「糸屑のような軌跡」が紋白蝶の飛び方をうまく表している。目の前を蝶が横切って行く際の、時間の流れが一瞬とぎれるような感じ。

孫用に揃えおきたる袋菓子賞味期限が迫り来るなり
                畑かづ子

孫が遊びに来た時のために用意しておいたのに、長らく来ないままなのだ。捨てるのはもったいないし、自分で食べるのも気が進まない。

天井に水陽炎がゆれてゐる心字が池のちひさなるカフェ
                斎藤雅也

カフェの建物が池のほとりにあるので水面の反射が天井に映るのだ。ゆったりした時間が流れて心地よさそうな雰囲気が伝わってくる。

「ごちゅもん」と女は言えりテーブルに油の染みた雲井飯店
                朝井さとる

店員はおそらく中国の人だったのだろう。町の商店街にあるような昔ながらの中華料理店。「雲井飯店」という名前を入れたのがいい。

兄の留守にそつと開いて眺めてた蝶の切手を逃がさぬやうに
                穂積みづほ

兄の切手のコレクションをこっそり見ている場面。美しい蝶の図柄は、今まさに飛んで行ってしまいそうなほど鮮やかだったのだ。

紫陽花のみづみづあをき葉は旨さう猫は食べたり叱られてもなほ
                吉田京子

確かに梅雨の時期の紫陽花の葉は色も濃くて瑞々しい。猫が食べるというのも初耳だが、それを見て「旨さう」と思うのもユニークだ。

posted by 松村正直 at 21:37| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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