山笑う、とさいしょに喩えた人がいてその生涯で出遭うほほえみ
加瀬はる
「山笑う」は芽吹き始めた山の様子を表す春の季語。「笑う」という言葉で大胆に捉えることで、同じ山の姿がそれまでとは違ったものに見えてくる。
あなたは海を例えない 言葉ではなくきらめきで理解する人
大壺こみち
海の魅力を言葉で説明したり何かに喩えたりするのではなく、そのまま感受するということだろう。言葉にすることで失われてしまうものがある。
助手席にゆきのねむたさ こんなにもとおくの町で白菜を買う
長谷川麟
助手席に乗っていると雪が融けるように眠くなるという感じか。「ゆき」と「白菜」の白さの重なり。ひらがなの多用が間延びしたような気分を伝える。
地図に載らない小さな並木のようだった愛した時間はひどくみじ
かい 加瀬はる
恋人と付き合っていた時期を振り返っての感慨だろう。「小さな並木」という比喩がよく、季節の移り変わりや二人の気持ちの変化が感じられる。
隣人の水音がしてなんとなく今はシャワーはやめにしておく
水瀬惠子
アパートの隣りの部屋から水を使う音が聞こえる。何の問題もないのだが、人の気配が感じられる気がして、シャワーを使うのをためらってしまう。
2019年7月15日、400円。