室温にしばしならせばおほどかに匙を容れたるハーゲンダッツ
コピー機を腑分けしてゐる一枚の詰まりし紙を探しあぐねて
牛乳に浸すレバーのくれなゐの広がるゆふべ 目を閉ぢてゐる
くれなゐのホールトマトの缶を開けいつかの夏を鍋にぶちまく
会議室を元の形に戻しをり寸分たがはずとはいかねども
ケチャップを逆さにすれば透明な汁の後よりくれなゐは垂る
ちぎれたる妻の時計を探しをりバンドの一部を握れる妻と
1首目、硬くて食べられなかったアイスが適度な柔らかさに変わる。
2首目、「腑分け」が面白い。前や横の扉を開けて機械の中を見る。
3首目、レバーの下処理の場面。頭の中にも想念が広がるのだろう。
4首目、缶詰の中には何年か前の夏の時間が封じ込められている。
5首目、「元の形」とよく言うけれど、確かに完全な元通りではない。
6首目、最初に流れ出る上澄みに着目したのがいい。生活のディテール。
7首目、ちぎれてしまったバンドに、何か取り返しのつかなさを感じる。
料理に関する歌が多くあり、そこに心情を滲ませるのがうまい。
2019年8月11日、現代短歌社、2500円。