2019年09月08日

門脇篤史歌集 『微風域』 (その1)

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昨年、第6回現代短歌社賞を受賞した作者の第1歌集。
「未来」「too late」所属。

置き傘をときどき使ふ傘であることを忘れてしまはぬやうに
青ねぎは屈葬されて真つ暗な野菜室にて冷たくなれり
一本のPeaceを吸へば遡及してゆらぎはじめる感情はあり
ハムからハムをめくり取るときひんやりと肉の離るる音ぞ聞ゆる
権力の小指あたりに我はゐてひねもす朱肉の朱に汚れをり
たぶんいま最高潮で歓声はごみを集むる我にも届く
いま妻は祈りのやうな体勢でヨガをしてをり自分のために

1首目、時々は出番を与えてあげないと傘でなくなってしまう。
2首目、「屈葬」がいい。青ネギがぎゅうっと折り曲げられている姿。
3首目、煙草を吸いながら次第に過去の記憶へと遡っていく。
4首目、「肉の離るる」と言ったことで生々しい感じが生まれた。
5首目、書類に判子を何度も捺す仕事。「汚れ」るのは指だけではない。
6首目、スケボー大会の仕事。競技は見られずに声だけ聞いている。
7首目、結句「自分のために」がいい。誰でもそうなのだろうけれど。

帯もあとがきも解説も無く、「現代短歌社賞受賞!」といったコピーもない。非常にシンプルな作りになっている。

2019年8月11日、現代短歌社、2500円。

posted by 松村正直 at 23:57| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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