「かりん」所属の作者の第1歌集。
「お前はもう、死んでいる」とか言いながらあなたと食べる胡桃のゆべし
百円のサボテン枯れる否 枯らす私は砂漠よりも砂漠で
腰にある鈴外す祖父葬儀中鳴らないようにと震える鋏で
人落ちる声が聞こえる後楽園前の通りを歩いてゆけば
雲間から覗けば海と工場の間に崩れた円墳がある
会議の為淹れてる紅茶終わつたら排水口へ流す紅茶を
翻訳を読むことでしか出会わない言葉の一つ「売女」という語
人の歯の数だけ歯科のある町を抜けて私は福岡へ行く
かき氷ばっかり食べていた夏があったな内臓を真っ青にして
降ってきた形のままに凍ってる雪は通りの躑躅の上で
1首目、「北斗の拳」の「あべし!」ネタ。楽しそうな二人だ。
3首目、祖母の葬儀の場面。徘徊対策の鈴を付けられていたのだろう。
4首目、「人落ちる声」に驚くが、下句で遊園地の絶叫マシンとわかる。
6首目、誰にも飲まれずに、ただ捨てられるだけの紅茶。
8首目、あちこちに歯医者を見かけるのだ。下句の展開に意外性がある。
9首目、舌ではなく「内臓」が真っ青と言ったのがいい。
2019年7月25日、短歌研究社、2000円。