2019年08月03日

吉田理恵歌集 『君が坂道駆けくれば』

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小樽在住で同人誌「トワ・フルール」に所属する作者の第1歌集。

 古民家が解体されて裏手より小さな石蔵現れて 春
 春雨とはやさしき響き春雨であなたの肩を濡らしてみたい
 いつの日か医師にならん学生もクレープを焼く札幌医大祭
 旅人に紛れてひとりわが町の運河を巡る夏の休日
 欲しい物は手にしたという顔つきの若者たちの夏も過ぎゆく
 道産子の四代目なるわれ故に訪ねてゆかん血筋の新潟
 数多(あまた)なる愛を描いて愛を得ずジェイン・オースティンは
 独身のまま
 観覧車解体されて築港の空ひろびろと秋の近づく
 カレンダー捲れば二月の白うさぎ雪の原よりわれを見つめる
 北国を離れる君の肩に舞う春の淡雪覚えていてね

全体が編年順ではなく季節の流れに沿って構成されている。「春はときめく」「夏は来たりぬ」「秋の気配す」「かの冬のまま」「春は近づく」の5章に分かれていて、春夏秋冬そしてまた春へと移っていく。

2首目、「はるさめ」という音の柔らかさとあなたへの恋心。
3首目、今は無邪気にクレープを焼いているが、やがてみんな医師になる。
6首目、曾祖父母の代に新潟から北海道へ渡って来たのだ。
7首目、『高慢と偏見』『エマ』などの作者。結婚せず41歳で亡くなった。
8首目、観覧車がなくなって空が広い。カ行音がうまく響いている。

小樽や札幌など北海道の気候・風土がよく感じられる一冊で、全体に淡い恋の感情が流れている。7音が6音になる字足らずがけっこうあるのが少し気になった。

2019年6月1日、旭図書刊行センター、1200円。

posted by 松村正直 at 07:27| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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