様々な地域を訪れて現地の人の話を聞きつつ、「地域」とは何か、「地域」の今後をどのように考えたら良いのか、といった問題について考察した本。
取り上げられているのは、福井県鯖江市、東京都檜原村、群馬県南牧村、静岡県熱海市、宮城県石巻市、東京都板橋区高島平団地。それぞれに歴史や条件の異なる地域の姿や課題が描かれている。
市区町村は行政の単位であって、地域の単位ではない。
日本の場合、集合意識の範囲の指標の一つは、お祭りが開かれる神社と、小学校の校区である。
過疎地と呼ばれるところは、じつはかつては、多くの人が住んでいた地域だ。
もともと、移住希望者向けの雑誌「TURNS」での連載が元になっていることもあって、移住に関する話も多く出てくる。
「都会でうまくいかないから来た」といったタイプは、地方に移住してもうまくいかない。
受入れ側の地域が自分たちの土地に夢と自信を持っていなければ、移住者を受入れるというような面倒を避けがちになるのだ。
本書の一番の特徴は、いわゆる「町おこし」や「地域の活性化」という話で終っていないことだ。そもそもなぜ活性化が必要なのか、というところまで話を掘り下げている。
インフラや財政をふくめた地域の持続可能性が確保され、地域で「健康で文化的な生活」が維持できるなら、活気がなくても「困る」ということはない。地域の目標は、まずこの点の確保に置かれるべきである。
「かつての賑わいを取り戻す」といった発想とは全く異なる考え方が、地域にも日本全体にも必要となっているのだろう。
2019年6月15日、東京書籍、1600円。