2017年1月1日から3月31日まで、一日に一首、計90首が収められている。見開きの右ページに自筆原稿の歌、左ページに活字の歌と短い日記という構成で、自筆の文字も味わいがある。
道が一本通りたるのみに「カウ金剛」の谷の田畑は 山にもどりぬ
ひとすぢの 茜を残し暮れてゆく雲を見てゐしは きのふのことか
青い頭の キャベツ畠から顔をあげ 婆さんが笑ふ 曇り日の午後
窓少し開けて眠れば 三更の 外の面の冷えの まなぶたに来る
蕎麦屋「石泉」日暮れと共に火を落し大将は白衣を脱いで座りをり
何となく潮の満ちくる圧力を 身に 感じをり あはれ島育ち
風もない 朝の寒さにかわかわと鴉が鳴いて冬を引きもどす
村人ら 大夕焼けの荘厳に 明くるあしたの上天気をいふ
6首目、作者は岡山県笠岡市の「神島」(こうのしま)生まれ。今では干拓で本州と地続きになっているが、かつては島であった。島で生まれ育ったという意識や感覚は、終生作者の心と体に宿っていたのだろう。どこに居ても、潮の満ち引きを身体で感じるのである。
2018年12月20日、潮汐社、3000円。