塔短歌会賞は、大森千里「釦をさがす」30首。
看護師の仕事の歌とランニングの歌。身体感覚が鮮やかだ。
水鳥の飛び立つときの静けさよ 銀の湖面につばさ落として
白布をしずかに顔に掛けるときいつもためらうわたしの指は
次席は宮地しもん「死者の月」30首。
親しかった司祭がふるさとのスペインで亡くなったことを詠む。
その墓地を雪はいつごろ覆ふのか刻まれてゐむ日付けも埋めて
また会ふ日はないと思へりまた会ふ日までと聖歌はくりかへせども
塔新人賞は、近江瞬「句読点」30首。
石巻に住む新聞記者という立場から見た東日本大震災後の歳月。
「話を聞いて」と姪を失ったおばあさんに泣きつかれ聞く 記事にはならない
僕だけが目を開けている黙祷の一分間で写す寒空
次席は川上まなみ「風見鶏」30首。
新任の国語教師としての迷いや悩みを率直に詠んでいる。
まず耳が真っ先に起き五時半の小さな音を耳は集める
そこで怒れよという声を聴くぶら下がる木通のような冷たさの声
今年も良い作品が多く集まり、選考会は大いに盛り上がった。
詳しくは「塔」7月号をお読みください。