2019年07月08日

相原かろ歌集『浜竹』

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「塔」所属の作者の第1歌集。
2006年から2017年までの401首を収めている。

 測量の人が見ている測量の世界の中を通ってしまう
 刃物もて林檎ひらけばふた粒の種もしろじろとひらかれている
 サーカスを家族で見たという過去のだんだん作りものめいてくる
 絶対に打ち首だよねとわらいあう母と妹アンド煎餅
 店員の人たちだけで笑い合うその風下で肉蕎麦を食う
 ぎりぎりに飛び乗ってきた人間の生きている音もろに聴こえる
 山椒が冷凍庫へと移転せり母のためしてガッテンゆえに
 「それが今の、奥さんです」で結ばれる話をつまり聞かされていた
 帰りがけにふたたびを見る木蓮は高きところの花ひらきたり
 差してない人と三人すれちがい四人目が来て我はたたみぬ

1首目、測量機を覗いている人には日常と別の世界が見えている。
2首目、黒い種が切られて内側の白い断面を見せているところ。
3首目、記憶は時間とともに変容するし、捏造されることもある。
4首目、「アンド煎餅」が絶妙。煎餅を食べながらの罪のないお喋り。
5首目、何となく居心地の悪さを感じてしまう。「風下」がうまい。
6首目、電車の駆け込み乗車。激しい息づかいや鼓動が聞こえる。
7首目、テレビ番組で勧められた通りにする母。
8首目、何だ、結局はのろけ話だったのかよという思い。
9首目、行きには咲いていなかったのだろう。渋い味わいがある。
10首目、雨が止んだ時の傘の話。「四人目」なのでわりと慎重派だ。

発想や言い回しが面白く、ぐいぐいと読み進められる歌集。ユーモアや皮肉がよく効いていて、ほのかな悲哀も感じる。

小題の付け方にも工夫があり、別々の2首から取った言葉を組み合わせた題が多い。「友じゃないけどセロテープ」「犬の中にも西行」「いつもよりコウモリ」「いい夫婦落ちています」「大人六人永久磁石」など、シュールな味わいがある。

一方で、どの歌も同じテイストであるため、たくさん読んでも深まっていくということはない。一首一首が永遠に繰り返される感じ。そのあたりをどう評価すれば良いのか迷う。

2019年6月16日、青磁社、1800円。

posted by 松村正直 at 09:20| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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