2019年07月04日

尾本恵市編著 『教養としての将棋』


副題は「おとなのための「盤外講座」」。

編著者の尾本恵市氏(分子人類学者)は、文系・理系を問わず日本文化としての将棋を多角的に研究する「将棋学」を提唱している。本書はその入門編といった内容だ。各章のテーマと執筆者は下の通り。

・第1章 対談 梅原猛(哲学者)×羽生善治(棋士)
・第2章 将棋の歴史 清水康二(考古学者)
・第3章 将棋のメカニズム 飯田弘之(棋士、人工知能)
・第4章 将棋の駒 熊澤良尊(駒師)
・第5章 将棋と教育 安次嶺隆幸(元小学校教諭)
・第6章 将棋の観戦記 大川慎太郎(将棋観戦記者)

第1章の対談は双方の持ち味が十分に出ていて面白かった。相手に遠慮したり同調したりし過ぎないのが良いのだろう。

梅原 ひらめきというのは、(・・・)長い長いむだな時間、一見ばかばかしいような回り道や失敗を経て、だんだん考えが熟成され、あるとき突然、ぱっと訪れるものなのです。
羽生 駒そのものがおもちゃになりやすくて、子どもでもさわっているうちに親しめるところが、将棋のひとつの特徴といえるでしょうか。
羽生 将棋に勝つためには「他力」が必要なんです。自分ひとりで勝とうとしても、無理なんですね。
梅原 最初の直観がすべて当たっているようなときは、かえってあまりいい研究にならないことが多いです。

2章以下では、将棋が平安時代に入唐僧によって日本に持ち込まれ仏教思想に基づいて改変されたという話や、駒の文字を書く際には駒を回転させずに正対して書かないと勢いのある字にならないという話、将棋はどちらかが「負けました」と言わないと終わらないゲームであるという話などが特に印象に残った。

将棋の本とは言っても棋譜や盤面図はほとんど出てこないので、「観る将」の人にもおすすめの一冊。

2019年6月20日、講談社現代新書、880円。

posted by 松村正直 at 00:01| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。