2019年06月05日

田口幹人著 『まちの本屋』


副題は「知を編み、血を継ぎ、地を耕す」。2015年にポプラ社より刊行された単行本を加筆修正して文庫化したもの。

盛岡の「さわや書店フェザン店」の名物店員(だった)著者が、本屋に生まれた自らの生い立ちや書店のあるべき姿について記した本。

僕が意識したのが、本屋を「耕す」ことでした。農業の「耕す」と同じです。(・・・)一つは、お客さまとのコミュニケーション。積極的にお客さまと本をめぐる会話をして、お客さまとの関係を耕していく。(・・・)本が詰め込まれた棚も、常に手を加え変えていくことが「耕す」ことになります。
僕たちは、売れていない本もあえて在庫に入れるようなことをします。一年に一冊も動かなかったりするのですが、必ず入れる。なぜかというと、この一冊があることによって、横に広がっていくことがあるからです。この一冊を挟み込むことによって、横にある本の意味が変わってくる。
大きな本屋には、大きな本屋の役割があって、それは病院でいえば、総合病院なのです。まちの中核の大事な病院。一方で僕たちは、まち医者みたいなもの。でも、たまに救命救急もやりますというイメージでしょうか。

本に愛情を注ぎ、様々な創意工夫をしながら書店の仕事に取り組んでいた著者であるが、今年の3月にさわや書店を退社した。
https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/3/21/50077

ある意味で本書は、果敢に戦い奮闘むなしく敗れ去った者の記録と言っても良いかもしれない。

いつまでも、店頭からお客さまに本を届ける仕事をし続けるつもりでいたが、僕の手法は手間隙がかかりすぎてしまい、時代の流れに逆行するものになってしまっていたようだ。

「文庫版あとがき」に書かれた一文に、著者の無念が滲む。

2019年5月5日、ポプラ文庫、660円。

posted by 松村正直 at 14:24| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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