昼ドラの刑事が背中を流しあい今日見た遺体について語らう
太代祐一
実際は守秘義務もあってこんなことはしないだろうが、ドラマにはありそうなシーン。遺体の話をしながら身体を洗うところに奇妙な生々しさがある。
ぎんいろの冬の空気を吐き出してこれはわたしに戻らない息
魚谷真梨子
一般的には「白い息」と言うところを「ぎんいろ」と言ったのがいい。冬の冷たく引き締まった空気。下句、自分の身体の一部が失われていくようだ。
海蛇と珊瑚の沈むぬばたまの鞄をつよく抱く目黒線
北虎叡人
「海蛇と珊瑚」は藪内亮輔の歌集タイトル。『 』に括らないことで、本物の海蛇と珊瑚のイメージが立ち上がる。「目黒線」の「黒」も小技が効いている。
タッパーに詰められるもの詰めてきた ひじきラタトゥイユナムル
さばみそ 小松 岬
パーティーや懇親会などで余った料理を持って帰ってきたところ。日本、フランス、韓国と全くバラバラな料理が一つのタッパーに入っている面白さ。
そうか、僕は怒りたかったのだ、ずっと。樹を切り倒すように話した。
田村穂隆
心の奥に眠っていた感情に初めて気づいたのだ。相手と話しているうちに感情が昂ってきたのかもしれない。句読点を用いた歌の韻律も印象的。
一つ空きしベッドの窓辺に集まりて患者三人雪を眺める
北乃まこと
病院の四人部屋の場合、通路側に二つ、窓側に二つのベッドがあることが多い。窓側の一つ空いたスペースに、残った三人が自然と集まってくる。
ポケットに帽子の中に新しき言葉二歳は持ち帰りくる
宮野奈津子
ポケットや帽子に入っている拾ったもの。それを物でなく「言葉」と捉えたのがいい。小さな子にとって物との出会いは新しい言葉との出会いでもある。