2019年05月19日

服部真里子歌集 『遠くの敵や硝子を』


現代歌人シリーズ24。
2014年から2018年までの作品291首を収めた第2歌集。

肺を病む父のまひるに届けたり西瓜の水の深き眠りを
あかときの雨を見ている窓際にしずおかコーラの瓶をならべて
海面に降るとき雪は見るだろうみずからのほの暗い横顔
白木蓮(はくれん)に紙飛行機のたましいがゆっくり帰ってくる夕まぐれ
ビスケット無限に増えてゆくような桜並木の下の口づけ
いのちあるかぎり言葉はひるがえり時おり浜昼顔にもふれる
死者たちの額に死の捺す蔵書印ひとたび金にかがやきて消ゆ
水を飲むとき水に向かって開かれるキリンの脚のしずけき角度
月の夜のすてきなペーパードライバー 八重歯きらきらさせて笑って
神を信じずましてあなたを信じずにいくらでも雪を殺せる右手

1首目、入院中の父への見舞い。西瓜の中には水が眠っている。
3首目、海面に映る自身の姿を見ながら雪は落ちてゆくのだ。
5首目、童謡「ふしぎなポケット」を思い出す楽しい歌。
6首目、「あるかぎり」→「ひるがえり」→「昼顔」と音が連鎖する。
7首目、美しくも怖いイメージ。もう死の所有物になってしまう。
8首目、前脚をハの字に開いて水たまりや川の水を飲むキリンの姿。

2018年10月17日、書肆侃侃房、2100円。

posted by 松村正直 at 22:10| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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