1989年生まれの作者の第1歌集。
あれが山、あの光るのはたぶん川、地図はひらいたまま眠ろうか
バス停がバスを迎えているような春の水辺に次、止まります
朝刊が濡れないように包まれて届く世界の明日までが雨
管つけて眠る祖母から汽水湖の水が流れて一族しじみ
知り合いの勝手に動く掃除機を持っていそうな暮らしをおもう
少年の、季節は問わず公園でしてはいけない球技と花火
京都から来た人のくれる八つ橋と京都へ行った人の八つ橋
アマゾンで腐葉土買えばしばらくは腐葉土の広告のある日々
1首目、高村光太郎『智恵子抄』の「あれが阿多多羅山(あたたらやま)、/あの光るのが阿武隈川。」という一節を想起させる。
2首目、結句で「次、止まります」というアナウンスに替わるのがいい。
3首目、ビニール袋や天気予報にあらかじめ守られている現代の暮らし。
4首目、汽水湖やしじみは作者のふるさと鳥取の記憶にあるのだろう。
5首目、「勝手に動く掃除機」(=ルンバなど)という言い方がユニーク。
6首目、初句「少年の、」からのつなぎ方に不思議な味わいがある。
7首目、地元の人が持って来るのと土産に買ったのとでは気分が違う。
8首目、購買履歴などをもとにネットに表示される広告。現代的な光景だ。
2019年3月19日、いぬのせなか座、2300円。