現代歌人シリーズ25。
237首を収めた第2歌集。
水面のどこに着地をしようともみずにはりつき流れゆく葉は
クレーンは夜更けんなるとあらわれてゆうたら町のみる夢やろう
対岸の陽にねこじゃらし向こうへと渡ればここがむこうになること
中指のあらん限りを立てている松のさびしき武装蜂起は
紙切れもにんげんさまも磔にされるときには四肢を留められ
くちびるの動きを視野のひろがりに見ながらすくう次の一匙
ねどこへと沈むからだの側臥位は二時間ほどをしずみつづけて
肩と膝ささえて体位を変えるとき天球がそのひとのまわりを回る
洞窟でひやしたビール飲む暮れの川には一輪挿しの白鷺
近づけば水面の家は散りぢりのひかりとなりぬ流れの綾に
1首目、川に落ちた葉が沈まずに流れていく。「はりつき」がいい。
2首目、昼間は街の喧騒に紛れて目立たなかったのだろう。
4首目、松の雌花を、中指を立てるジェスチャーに喩えている。
6首目、食事介助の場面。匙を口に運ぶタイミングが大切だ。
8首目、褥瘡ができないように二時間ごとに体位変換をする。
9首目、「一輪挿しの白鷺」が絶妙。一羽ぽつんと川に立っている。
6〜8首目のような介護の仕事の歌が特に印象的だった。
巻末の「夜を終わらせる」と題する文章は、〈あとがき〉というよりも、冒頭の連作「春になると妖精は」と対になっているのだろう。目次もそのようなレイアウトになっている。
2019年2月20日、書肆侃侃房、1900円。