2019年05月02日

吉川宏志歌集 『石蓮花』 (その1)


現代歌人シリーズ26。
2015年から2018年までの作品を収めた第8歌集。

パスワード******と映りいてその花の名は我のみが知る
赤青の蛇口をまわし冬の夜の湯をつくりおり古きホテルに
みずからに餌を与える心地して牛丼屋の幅に牛丼を食ぶ
初めのほうは見ていなかった船影が海の奥へと吸いこまれゆく
その命うしなうときに青鷺の脚はそのまま骨となるらむ
かまぼこの工場裏を歩みおり風やみしとき魚臭ただよう
遠くから見る方がよい絵の前に人のあらざる空間生まる
水に揺れる紅葉見ており濃緑(こみどり)のときも映っていたはずなのに
海の場面に変わる映画のひかりにて腕の時計の針を読みおり
金網は海辺に立てり少しだけ基地の中へと指を入れたり

1首目、記号を使った歌。アスタリスクの形を花に見立てたと読む。
2首目、赤がお湯で青が水。うまく調整しないと良い湯加減にならない。
3首目、「幅に」がポイント。カウンター席一人分の幅。
4首目、上句がいい。どこから来たのか、気付いたら既に見えていた船。
5首目、肉がなく骨が剝き出しになった脚であるという発見。
6首目、かまぼこの原料は魚。風が吹いている時にはあまり臭わない。
7首目、絵の前がぽっかり空いている光景が面白い。
8首目、青々と葉が茂っている時期には川に映っていることに気付かない。
9首目、スクリーンが明るくなって腕時計の針が見えるのだ。
10首目、沖縄の米軍基地の金網。指が基地へと侵入している。

2019年3月21日、書肆侃侃房、2000円。

posted by 松村正直 at 07:39| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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