訪日外国人旅行者数が3000万人を突破して、観光地や商店が賑わいを見せる一方で、混雑や交通渋滞、住民とのトラブルといった問題も起きている。そうした現状を踏まえて、今後どのようにすれば良いのかを論じた本。
タイトルには「観光亡国」という刺激的な文句が使われているが、決して観光を否定的に捉えているわけではない。適切なマネージメントとコントロールを行ったうえで観光立国を目指そうというのが論旨である。
「お客さんにとって便利なように」という言葉には要注意です。(・・・)むしろお客さんを「不便」にさせて、本来歩いてほしい道をたどる工夫を施すことです。参道を歩いてこそ、神社を訪問する本来の意味を取り戻せますし、参道の商店とも共存できるのです。
地域観光にとって一番大切な資源とは、素朴で美しい風景です。その風景の中に、やみくもに道路を通し、さらにその工事に伴って山と川にコンクリートを敷き詰めることは、やはり観光公害にほかなりません。
日本各地の様々な実例が挙げられているのだが、その中には京都に関する話も多い。
「観光」を謳う京都のいちばんの資産は、社寺・名刹とともに、人々が暮らしを紡ぐ町並みです。皮肉にも京都は、観光産業における自身の最大の資産を犠牲にしながら、観光を振興しようと一所懸命に旗を振っているのです。
たとえば20年前には、京都駅の南側に観光客はそれほど流れていませんでした。伏見稲荷大社も、境内は閑散としていたものです。しかし今は、インスタ映えする赤い鳥居の下に、人がびっしり並ぶ眺めが常態化しています。
伏見稲荷の近くに住んでいるので、こうした話は日々身をもって実感している。私が京都に住み始めたのは2001年のことだが、その時と今とでは劇的に変化したと言っていい。
2019年3月10日、中公新書ラクレ、820円。