2019年03月29日

永田和宏歌集 『某月某日』

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第14歌集。
「歌壇」2015年1月号から12月号まで連載された作品をまとめた一冊。2014年10月から一年間、毎日一首以上の歌が詠まれ、日付や詞書を付けて発表されている。(引用は歌のみ)

教師の話を疑ふところから始めよと言へどそれをもノートに写す
麻酔より覚めつつあらむころかなと猫を思へりあかつきがたに
アンパンマンの鼻が袋をはみ出して幼なの去りし部屋は広しも
発電量ゼロが続ける数日をヤマネのごとく籠り過ごしぬ
冬芝の枯れ色のなかを歩みきてゴルファーは多く原色を着る
背広組制服組とふ分けかたの背広組こそ危険かもしれぬ
余りたる乳を絞りて朝顔に君がそそいでゐた裏の庭
七日分出しときませうそれにしてもギリシアいいですねえと処方箋
もう少しつきあへと言へばいいよと言ふぶつきら棒の棒のやさしさ
わが縁に来る三匹におのづから序列がありて餌皿(ゑざら)は二つ

1首目、大学生に向けての講演の場面。苦笑いするしかない。
2首目、飼い猫が入院・手術した際の歌。「猫」が下句で出てくるのがいい。
3首目、上句の描写に孫の去ったあとの寂しさが滲む。
4首目、樹洞にすっぽり収まっているヤマネの感じ。
5首目、カラフルなダウンベストなどが枯れ芝の中で目立つ。
6首目、かつて住んでいたアパート。妻が授乳していた頃の記憶。
7首目、自衛隊の文民統制についての思い。
8首目、初二句だけで医師の言葉だとわかるのが鮮やか。
9首目、息子と夜に飲んでいる場面。「ぶつきら棒」の良さ。
10首目、序列が三匹目の猫はしばらく食べられないのだろう。

2018年12月24日、本阿弥書店、2700円。

posted by 松村正直 at 07:55| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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