副題は「人気メニュー誕生ものがたり」。
2013年に彩流社より刊行された単行本『ニッポン定番メニュー事始め』に加筆修正・改題して文庫化したもの。
「カレー」「餃子」「牛丼」「コロッケ」「ショートケーキ」など、私たちの食卓に欠かすことのできないメニュー28品を取り上げて、そのルーツや来歴を解き明かしている。
日本におけるカレーの普及において、イギリスというワンクッションが果たした功績は大きい。歴史に「もし」はないというが、もしカレーが「カレー&ナン」の形でインドから直輸入されていたら、日本でこれほど定番メニューになったかどうか。
今ではパスタの茹で方といえば、芯が少し残るくらいの茹で立ての「アルデンテ」が当たり前。しかし、この言葉が普及したのは、セモリナ粉100%のパスタが普通に手に入るようになった1980年前後と、つい最近のことだ。
鷄肉が日本で広く流通するようになったのは、戦後である。肉用若鶏のブロイラーの生産が始まったのは、1953(昭和28)年になってからだ。
明治以降、肉食を始めとした西洋料理を日本風にアレンジした「洋食」が次々と生み出されてきた。それが1980年代くらいからだろうか、イタリアンやフレンチなどの店が増え、「本場」の「本格的」な味が手軽に楽しめるようになった。
それに伴って、「洋食」が実は日本にしかない料理であることに私たちは気づかされることになった。それは、私にとってはちょうど子供から大人への成長の時期にも重なる。その哀しさと懐かしさのような記憶が、昭和という時代とともに、この本を読んで鮮やかに甦ってきた。
2017年2月1日、新潮文庫、590円。