2019年02月27日

「塔」2019年2月号(その1)


 境内に並み居る菊の大輪に見入る人びと菊のかほして
                         干田智子

寺社で開かれている菊花展を見にいったところ。結句「菊のかほして」がおもしろい。人間よりも展示されている菊の方が強い個性を放っている。

 人のために費やす時間は必ずしも清らかでない時もあるから
                         片山楓子

「人のために」と言うと何か良いことのような印象を受けるが、実際には、妬んだり憎んだり怒ったり悪だくみをしたりに費やしている時間も多い。

 捕えられし仲間を見守る十あまり浅瀬に集いて動くともなし
                         福政ますみ

前の歌を読むと、青鷺に鴨が捕まった場面とわかる。他の鴨たちは捕まった一羽を助けようとはしない。自然界の動物たちのありのままの姿である。

 ハローキティみたいにずっと口もとを隠したままで生きていきたい
                         上澄 眠

話をする時や食事をする時など、口もとを見られるのは緊張することかもしれない。何しろ身体の内側がむき出しになって見えてしまうのだから。

 配管の曲がるところに満月のひかりは溜まる 溜まれどこぼれず
                         金田光世

建物の外側に付いている配管の曲線部分が月の光を受けて光っている。「ひかりは溜まる」と表現したのがいい。光が液体のように感じられる。

 長傘はたたまれてみな下を向くそれぞれ兵のごとく疲れて
                         宮地しもん

下句の比喩が印象的だ。ずぶ濡れになった兵士たちが俯いて束の間の休息を取っている姿が目に浮かぶ。緑や紺や黒っぽい傘が多いのだろう。

 秋雨の午前一時に打ち終えた引継資料に印強く押す
                         佐藤涼子

夜遅くまで残業をして、あるいは家に仕事を持ち帰ってという場面。結句「印強く押す」がいい。ようやく資料が完成した疲労感と充実感がにじむ。

 時計屋に時計いくつも売られつつ時間は売られていない真昼間
                         鈴木晴香

発想のおもしろさに惹かれた歌。確かに「時計」は売っていても「時間」が売られているわけではない。それでも時計が並ぶ光景には何となく夢がある。

 新しいバイト入りて今までのバイトは電話をとらなくなりぬ
                         和田かな子

職場では電話の応対をまず教わることが多い。自然と一番新しい人が電話を取ることが多くなる。「今までのバイト」の子は一つ序列が上がったのだ。

 コンバインくるりくるりと滑り行く列なす稲穂を吸い込みながら
                         川述陽子

コンバインによる稲の収穫風景。刈り取り・脱穀・選別を一度にやってしまう優れもの。「滑り」「吸い込み」に機械のスムーズな動きが感じられる。

posted by 松村正直 at 19:39| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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